GeNuineでは、約1年にわたり「ジェンダー化された核被害を可視化するプロジェクト」に取り組んできました。
その成果を国際社会へとどけるため、3月3日から行われる核兵器禁止条約の締約国会議にあわせて、国連に作業文書を提出しました。 英語版(TPNW/MSP/2025/NGO/5)はこちらからご覧いただけますので、ぜひご一読ください。
また、日本語訳をこのページで紹介させていただきます。 日本でも、今後の議論の土台にしていただければ、幸いです。
ジェンダーに配慮したあらゆるシステムの構築を促進する:被害者援助におけるジェンダー主流化
導入
1. 「核兵器禁止条約が核兵器のジェンダー化された影響に初めて着目したこと、そして締約国が条文や実施においてジェンダー主流化を推進していることを高く評価する」核兵器の非人道性を真の意味で理解し、核の遺産と向き合うにおいて、ジェンダーという視点は必要不可欠である。
2. 私たちGeNuineは、日本を拠点にしたユース主導の団体であり、2023年より活動しているICANのパートナー団体である。私たちの活動のミッションは、核兵器をジェンダーのレンズによって定義しなおし、ナラティブを変容させ、すべての人の安全を保障する政策へと転換していくことである。
問題意識
3. ジェンダーは”女性の問題”ではなく、男性、セクシュアルマイノリティなどあらゆる人々が社会的にどのような権力関係の中の位置づけられ、影響を受けるのかを明らかにする重要なレンズである。
4. 私たちは、過去2回行われた核兵器禁止条約の締約国会議やNPT再検討プロセス、また核政策に関わる数多くの会議において、ジェンダーという概念が身体的性差にのみ焦点を当てた形で狭義に理解され、論争となっていることを憂慮している。
5. 電離放射線による身体的性差(Biological sex)に基づいた女性や女子への不均衡な影響の科学的根拠を示すことは、非常に重要であり、その努力に敬意を表する。
6. その上で、ジェンダーを身体的性差としてのみ捉えるのではなく、社会的・経済的な性別による格差についても考慮することが必要である。そして、社会的・経済的な【性別】による格差も被ばくによるジェンダー化された影響としてとらえる必要があると強く提起したい。
7. 核兵器は、一瞬にして爆心地付近にいた人を無差別に殺傷した非人道的な兵器であると同時に、被ばく者としての人生において、ジェンダー化された苦しみがあることを知るべきである。それ抜きに、ジェンダーに配慮した被害者援助はなしえないだろう。
ジェンダー化された被害に関する分析
8. 私たちは、約1年にわたり戦争被爆国である日本で、被ばく者(Hibakusha)、支援者への聞き取り調査や、社会的・経済的影響に関する先行研究をジェンダー視点でレビューすることを試みた。調査を通して、被ばくの影響は社会的・経済的にもジェンダー化されていることがわかりつつある。
9. 被ばく直後の急性期生涯として、月経異常や精子数の減少が指摘されており、被ばくによって性と生殖の健康(Sexual Reprodctive Health)を大きく損う。そしてこうした事実が明らかになっていなかった被ばく直後から、被ばく者は根拠のない偏見の目にさらされ、男女問わず多くの被ばく者が結婚差別に悩み、離婚に怯え、子供を持つことをためらったという証言が多く残されている。これらの証言は、当時の日本において結婚することが当たり前とされており、特に女性は経済的自立が困難であったために離婚することが困難であった(簡単ではなかった)という社会的背景を踏まえて捉える必要がある。核の使用や実験による被ばくは、自己決定権を奪うという点からも、セクシュアル・リプロダクティブヘルス/ライツ(Sexual Reprodctive Health and Rights:SRHR)と両立しえない。
10. 経済的なレジリエンスの面でも、ジェンダー規範が強く影響した。日本では、1945年以降も男性が家督を継ぐという認識が根強く残っていたため、被ばくをした家庭の世帯主や跡取りの男性が生存するか否かで、被ばく以前の階級(class)への復帰のスピードに差が
あった。女性のみが生存した場合には、落層するケースも報告されている。これは、家父長制や男女の賃金格差といったジェンダー格差や規範が生み出した被害である。
11. 核被害において、「からだ」へのジェンダー化された影響のみならず、「こころ・くらし」にもたらした被害についてもジェンダー視点を持つ必要があることは明らかである。
提言
12. 私たちGeNuineは、上記の分析を踏まえて、ジェンダーに配慮した被害者援助について以下を提言する。
a. ウィーン行動計画のAction 25, 47,48,49, 50の実施における核被害、特に「被ばく後」の人生において、社会的地位、年齢、ジェンダーによって特定の属性が不均衡な影響を受ける点に留意すること。
b. 国際信託基金の対象事業では、医療や就職、賃金格差など公的領域での対策にとどまらず、離婚や家庭内での冷遇といった私的領域での影響にも配慮し、相談事業などメンタルケアを基軸としたコミュニティ支援なども行うこと。
c. 被ばく者へのスティグマは、ジェンダー規範などによってより強化され、多層化している。彼らの尊厳を回復するアドボカシーの活動にも力を入れること。
d. これまで核被害者は、単に受動的な援助対象者として扱われ、ジェンダー化された核被害は不可視化されてきた。そのため、今後の被害者援助のプロセスにおいて、核被害者が主体的な意思決定者として協働する仕組みをただちに構築すること。
e. その上で、被害者の声を反映するだけに留まらず、歴史的に意思決定の場から排除されてきた女性や先住民、ユース、セクシュアルマイノリティといった人々を包摂し、かれらも意思決定の主体とすること。

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