こんにちは、徳田悠希です。
核兵器禁止条約の第2回締約国会議(2MSP)が、11月27日から12月1日にかけて米・ニューヨークで開催されました。ジェンダーと核軍縮に関する議論は、核兵器禁止条約の成立を機に、年々増加しています。本記事では、2MSPにおいてジェンダーがどのように議論されたのか、主にジェンダー・フォーカルポイントに任命されたチリによるレポートと、会議最終日に行われたジェンダーに関するセッションを紹介し、進展と課題について考えていきます。
会期間中のジェンダー・フォーカルポイントの取り組み
昨年ウィーンで開催された核兵器禁止条約の第1回締約国会議で、「ウィーン行動計画」が採択され、全50項目中4項目が、ジェンダーに配慮した参加や被害者援助でのジェンダー視点など、ジェンダーに関する計画であり、核軍縮レジームの中でも特徴的だと言えます。行動計画に沿って2MSPの議論が進められた他、第1回締約国会議から2MSPまでの会期間中、ジェンダー・フォーカルポイント(条約に関連するすべてのプロジェクトについて、ジェンダー配慮がなされているかをチェックする)という役職が置かれ、チリが任命されました。会期間中、チリ主導で3回のNGOなどからのインプットが行われ、レポート(TPNW/MSP/2023/4)が提出されました。
レポート内では、ジェンダー関連事項の取り扱いに関して、以下6つの勧告がありました。
①会期間中のジェンダーに関する取り組みを歓迎すること
②ウィーン行動計画の行動47-50について、特にTPNW関連のすべての国家政策、プログラム、プロジェクトにおいてジェンダーへの配慮がなされるよう推奨すること
③次期会期間中にジェンダー・フォーカルポイントを務める締約国を指定すること ④他の軍縮関連条約が、被害者支援にジェンダーの視点をどのように統合し、ジェンダーに配慮したガイドラインを作成したのか検討すること ⑤被害地域の女性や学界、市民社会に対し、核兵器がもたらすさまざまな影響と、被害者支援に対するさまざまなニーズについて理解を深めるための働きかけを行うよう奨励すること ⑥核兵器が女性と女児に与える影響に関する情報をさらに発展させるため、科学諮問グループとの緊密な協力を維持・拡大すること
また、 「否定的で有害なジェンダーの固定概念は避けるべきである」(TPNW/MSP/2023/4, パラ10-h)との記述があり、ジェンダー主流化と、人権の保障と平和の促進は、相互に不可欠な視点であり、協調するよう提言しています。これは、後述するように、締約国間でも「ジェンダー」についての認識が統一されていないことに起因する対立を避け、ジェンダー視点の重要性を協調するものだといえます。
第2回締約国会議における締約国・市民社会の発言
ジェンダー・フォーカルポイントを務めたチリをはじめ、コスタリカ、アイルランド、ニュージーランド、ウルグアイ、キリバス、コンゴ民主共和国、エルサルバドル、ホンジュラス、ローマ教皇庁、オーストリアの11ヵ国からの発言の後、市民社会からWomen’s International League for Peace and Freedom(WILPF)と新日本婦人の会が発言しました。
多くの締約国が、電離放射線が女性や女児に不均衡な影響を与えることに言及し、核被害のジェンダー化された影響に関する科学的な根拠の強化を求める声が上がりました。コスタリカやアイルランド、ウルグアイ、オーストリアなどは、女性や女児への不均衡な影響に関する調査を、科学諮問グループ(Scientific Adovisary Group:SAG)でも行うよう提言しました。また、大多数の締約国が、条約の実施全体を通してジェンダーの視点が取り入れられることを支持するという立場を表明しました。
核兵器の問題におけるジェンダー主流化の意義について深く言及していた、コスタリカとオーストリアの発言を紹介します。コスタリカは、フェミニスト的視点に依拠したスピーチを行いました。ジェンダー視点を含んだ被害者援助の取り組みを歓迎し、核兵器の被害は、電離放射線の影響や社会的なスティグマという観点から、必ずしも「ジェンダーブラインドではない」(ジェンダーによって影響に差がある)と主張しました。そして、TPNWはフェミニストの条約であり、フェミニスト政策と核戦略はそもそも相反するものであること、また、意思決定におけるジェンダー多様性を確保すべきと主張しました。オーストリアは、核兵器を取り巻く概念と、ジェンダー化された言語との関連に関する継続的な作業を強く奨励しました。
他方、ローマ教皇庁は、「ジェンダー」の概念が、条約成立当時から変容しているとし、懸念を示しました。「ジェンダー」の定義とは、生物学的なアイデンティティに基づいただ「男性・女性」のみであると主張した上で、女性や女児への不均衡な影響が科学的に証明されなければ、条約への積極的な義務を果たすのは難しいと発言。加えて、ジェンダー・フォーカルポイントの継続について、将来的に再検討する必要があるかもしれないと述べました。
また、市民社会からは、WILPFと新日本婦人の会が発言しました。
WILPFは、TPNWは、男性優位が続く核兵器分野において、女性の参加を増やすことを約束した、核兵器に関する最初の文書であると評価。核兵器全般の議論において、社会的に規定された男女の二元論を越えて、あらゆる性別、性的指向、人種、階級、年齢、障害などに関する多様性を奨励し、促進することが重要であると述べました。その上で、社会の構造によっても人々に不釣り合いな影響を与えることに留意すべきだと強調しました。また、オーストリアが提案した、核抑止力に反対するナラティブや議論を形成するための会期間中の作業には、フェミニスト、LGBTQ+、人種的正義の理論や実践などを取り入れることが有益だと提言しました。
新日本婦人の会は、女性被爆者が直面してきた困難を訴えました。差別とスティグマによって、結婚や就職の機会も与えらなかったことや、多くは流産や死産を繰り返し、合併症もなく出産した被爆者であっても、自分自身や自分の子どもや孫の健康への不安を一生抱えて生きてきたことを紹介。継承への取り組みも紹介し、女性たちの草の根の活動こそが、核抑止力神話を打ち破る力になると信じているとしました。
ジェンダー関連議論への考察
筆者は昨年、第1回締約国会議に現地参加しましたが、当時と比べてジェンダーに関する論点が明確になってきたと感じています。ジェンダーに配慮した被害者援助の在り方など、他の条約履行プロセスと連携した形での議論の成熟がみられるからです。
他方、2つほど注視するべき点をあげたいと思います。1つは、ローマ教皇庁の発言にみられる、締約国間での「ジェンダー」への解釈の差異です。ジェンダーとは、「男性・女性であることに基づき定められた社会的属性や機会、女性と男性、女児と男児の間における関係性、さらに女性間、男性間における相互関係」(UN Woman)と一般的に定義されます。今回ローマ教皇庁が主張したように、男女二元論に固執し社会的な背景を軽視する、身体的な性差による男女の差のみを「ジェンダー」と解釈することは、被害者援助でのジェンダー視点の統合や、核のジェンダー化された言説の解体といった、今後の取り組みに支障をきたす可能性があるのではないでしょうか。私としても、核使用や被ばくの「無差別性」を大前提とした上で、ジェンダーや年齢、障害、地域、階級といった社会的な状況によって、スティグマや経済状況などに不均衡な影響が「プラス」されたという観点を、今後の活動や提言の重点課題としていきます。
2点目に、ジェンダーに関する議論が、「女性や女児に不均衡な影響があること」を証明することに偏向していることが挙げられます。2000年、国連安保理決議1325号「女性・平和・安全保障」で提言されたように、ジェンダーの視点を持つと言うことは、「被害者」として女性を扱うというではありません。もちろん、女性や女児をはじめとした、社会的に脆弱な立場に置かれている人々の安全を無視した上でしか存在できない核政策を強く非難する必要はあります。しかし、女性や女児を「被害者」のアイコンとして過度に押し出し続けることは、家父長的な考えを再生産することと表裏一体です。
すべての人の人権が尊重された、平和な社会をつくるための必要不可欠な「担い手」として女性を認識することが、今後さらに必要なのではないでしょうか。そして、それは女性に限定されることなく、性別、性的指向、地域性などに配慮した、多様な人々の意思決定への参加が必要です。今後も、国内外で、核軍縮とジェンダー主流化を後押ししていくような活動を行っていきたいと思います。
(執筆:GeNuine 徳田悠希)
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